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Mermaid & Merrow
人魚

人魚というと真っ先に思い浮かべるのは
アンデルセンやディズニーに出てくる、マ-メイド Mermaids でしょうか。

マーメイドは、イギリスからスカンジナビア半島周辺の海に住み、
腰から上は長い金髪の美しい女性の姿、腰から下は魚で、尾ひれがついています。
男の人魚はマーマンと呼ばれています。
マーメイドは時々海岸の岩に腰掛けて、鏡を覗きながら美しい金髪をとかし、魅惑的な声で歌います。
その歌声を聞いた者はマーメイドの虜となり、海に引きずり込まれてしまうそうです。
また船乗りの間では、マーメイドが姿を現した時は、嵐が起こると言われ恐れられていました。

 一般的ではないけれど、アイルランドにもメロー Merrows と呼ばれる人魚がいます。
同じように、メローも姿を現すと嵐が来ると恐れられていました。
女のメローはマーメイドのように美しく、魚のような尾と指の間には小さな水掻きをもっています。
けれど、男のメローは、緑の髪に緑の歯、鼻は赤く、豚のような目をして、醜いと言われています。

そして、男も女も赤い羽の帽子をかぶって、乾いた水の国から海を通ってやってきます。
地上でこの帽子を盗まれると、海に帰れなくなってしまいます。

女のメローは人間と恋に落ちて結婚することもあり、
アイルランドには、人魚に恋をした漁師の物語が残っています。


むかし、ある村にオインという若者が住んでいました。
ある年、きびしい冬がやって来て、家に食べ物がなくなってしまったので、オインは浜辺に出て、海草や貝などを拾い集めて、なんとか暮らしていました。
 ある晴れた日のことでした。オインがいつものように浜に出て、岩のあいだにいる小さな貝を集めていると、とつぜん、近くの水の中から、見たこともないほど美しい娘が姿をあらわしました。
娘はそばの岩に腰掛けると、はおっていた肩かけをとって、岩の上におきました。それはきらきらとかがやく、絹のように美しい布でできていました。

 それから娘は長い髪をとかしはじめました。娘は長い間、気持ちよさそうに髪をとかしていましたが、その間中 オインは娘から目を離さず、じっと見ていました。
 やがて娘はまた水の中にするりと身を沈めました。そのとき、オインは思わず手をのばして、まだ岩の上にあった美しい布をつかむと、家の方に向かって走り出しました。
 オインは昔から、人魚は肩かけがなかれば、海にもどることができない、と言われているのを知っていたからでした。
『あの娘は、必ずこれを取り戻しに、おれを追いかけて来るだろう』と、オインは思ったのです。

 再び水から顔を出した娘は、岩の上においた肩かけがないことに気がつきました。
そして、その肩かけを持って走っていくオインを見ました。娘はオインの後を追いましたが、水から出た娘は速く走ることができませんでした。
 オインは家に着くと、すぐに美しい布を隠しました。ようやくオインの後を追ってきた娘は、「どうか私の肩かけを返してください」と何度もたのみました。けれど、オインは首をふって返そうとはしません。そして娘に言いました。
「おれと結婚して、ここで一緒に暮らしてくれないかい?」
 こうして娘は仕方なく、そのままオインの家で暮らすことになりました。

 オインと美しい娘が結婚して一緒に暮らすようになると、娘もオインが心から好きになりました。
それから、長い月日がたちました。娘は今ではオインの良いおかみさんになりました。二人の間には、男の子が二人と女の子が一人生まれました。
しかし、オインはいつも人魚の肩かけ見つかるのを恐れて、始終その隠し場所をかえていました。あるときは干し草の山の中に、あるときは麦の袋の中に。

 ある日、わらぶき屋根をふきかえていたオインは、屋根にふいたわらの下に肩かけを隠すことを思いつきました。『こんないい隠し場所はない。ここなら誰にも見つかることはないぞ』
 オインはさっそく肩かけをわらの下に隠しました。ところが、一番上の息子が屋根ふきの仕事をじっと見ていて、オインが美しい布を隠すところを見ていました。
 
 次の朝、オインは魚をとりに出かけました。家にはおかみさんと子供達がいましたが、突然、一番上の息子が言いました。
「母さん、そういえば、昨日、とってもきれいなものを見たよ。父さんが屋根のわらの下に、そっと入れてたんだけど、母さんもあれを見ればよかったよ」
「それはどんなものだったの?」と母親は聞きました。
「それが、見たこともないほどきれいな布なんだ」
「どこにあるの、さあ、教えておくれ」
 息子は母親の手を引いて屋根の下まで来ると、昨日父親が美しい布を隠したあたりを指さしました。屋根の下にはオインが使ったはしごがありました。おかみさんは、はしごを屋根にかけて登ると、わらの下から美しい布を取り出しました。
 おかみさんはうれしそうに自分の肩かけをじっと見ていました。
そして、それをすぐに取り出せるところに隠しました。
 それからおかみさんは、家の中をきちんとかたずけて、きれいに掃除すると、子供たちの体を洗い、いつもより念入りに髪をといてやりました。それから夕食の支度をしました。

 夕方、オインが家に戻った時、夕食はすっかりできていました。オインと子供たちがテーブルについて食事をはじめると、おかみさんは黙って戸口から出ていきました。オインがおかみさんを見たのは、それが最後でした。おかみさんは隠しておいた肩かけをはおると、海へ向かって行きました。人魚になって、再び海に帰っていったのです。

 その後、オインのおかみさんを見た者は誰もいません。
ただ漁師たちは、オインの子供たちが乗っている船のまわりを泳いでいる人魚の姿を何度か見た、と話していたそうです。

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